AIによるデータ利用への同意は、納得とは限らない|数字に残らない確認を記録する
AIに任せる仕事が増えるほど、数字に残るのは量と回数で、誰が確かめたかと、顧客が納得して応じたかは数字から抜け落ちていきます。
リード
月末の報告会議で、マーケティング担当者が三つの数字を並べる場面を想像してみてください。AIで作った広告素材の本数は前月の倍になりました。新しく入れたAIアシスタントへのデータ利用の同意率も高く出ています。試しに出稿したChatGPTの広告にも、クリックが付き始めています。どの数字も、AIに任せた仕事がうまく回っていることを示しているように見えます。ところが今週公表された調査や業界の証言を並べてみると、どの数字の裏にも数えられていないことがありました。広告のロゴが正しいかを誰が確かめたのか、同意した人のうち何人が仕方なく押したのか、媒体が報告したクリックのうち自社の記録で確かめられたのは何件だったのか、という点です。
今週の示唆
先週の第14号では、AIに何を任せるかを自分で書いていた会社だけが、その範囲を決められていたことを見ました。今週は、任せたあとの話です。任せた仕事の結果は、たいてい件数や率として報告に上がってきます。同意の管理ツールを提供するUsercentricsは、9月29日に公表した調査の発表文で、利用の許可率がそのまま同意の質を示すものとして読まれていると指摘しました。9月24日の業界イベントでは、デジタルエージェンシーDEPTのIsabel Perry氏が、人とAIがそれぞれ担う顧客接点を踏まえて、予算を振り向けるべき不足を測る必要があると話しています。数字が伸びていても、その中身を確かめる手段がなければ、会社は任せた仕事の出来を自分で判断できません。
今週の読み筋
AIに任せる仕事が増えるほど、数字に残るのは量と回数で、誰が確かめたかと、顧客が納得して応じたかは数字から抜け落ちていきます。抜け落ちたものは、問題が起きるまで報告に上がってきません。ロゴの誤りも、不本意な同意も、媒体の数字と自社の記録のずれも、件数の集計からは見えない場所で起きていました。AIの成果を評価するときに、件数の横に「誰が確かめたか」と「顧客がどう応じたか」の記録を置けるかどうかで、任せた仕事を自社のものとして持ち続けられるかが分かれると見ています。
構造を観察する
AI広告の制作現場では、人による確認が求められた
Digiday、Glossy、Modern Retailが9月24日に開いたイベント「AI Marketing Strategies」では、発言者の名前を出さない条件の討論会で、ブランド側のマーケターがAI広告の品質について率直に話しました。高級化粧品ブランドの担当者は、品質管理がひどく、AIを使った広告の仕組みに自社の基準を組み込むのに誰もが苦労していると述べています。別の担当者は、代理店から上がってくる制作物でロゴが正しくないものを何度も見たと話し、キャンペーンを流す前に人が確認するよう求めざるを得なかったと明かしました。「まあ十分だろう、出そう」という空気が広がっている、という言い方も出ています。
最初の一割を指示に使い、AIが八割を作り、最後の一割で人が仕上げる、という運用を語った参加者もいました。その最後の一割を誰が担っているのかについては、複数のブランド側担当者が、代理店が若手社員に運用を任せていると不満を述べています。
世界広告主連盟(WFA)が9月30日に公表した調査も、同じ形をしています。主要ブランド46社・54人の回答で、生成AIやAIエージェントを使っているブランドは96%に達し、2023年の45%から大きく増えました。75%はAIが作ったものに人の監督を求めています。一方で、代理店がAIをどう使っているかを十分に把握できていると答えたのは13%でした。59%がAIに関する条項を契約に入れ、69%が代理店にAIを使ったことの開示を求めています。ただ、開示で分かるのは使ったかどうかまでで、誰がどこまで確かめたかは別に記録しなければ残りません。
新卒採用を止めた広告会社の証言は、確認できる人の育成を考えさせる
同じイベントの別の討論会では、採用の話が出ました。中小規模の運用型広告会社の経営者は、しばらく大学の新卒を採っておらず、今後も採る見込みはないと話しています。この会社はかつて新卒だけを採用し、その多くが社内でも指折りの社員に育ったそうです。採らなくなった理由として、この経営者は、新人が担っていた作業の多くをAIが埋めていることを挙げました。
別の参加者は、新卒採用を止めるのは先を見ていない判断だと反論しました。ベテランが引退したとき、代理店に知識が残らなくなるからです。この参加者は、新人の役割をなくすのではなく作り直すべきで、技術ではなく人材育成の課題だと述べています。
前の節で、ブランド側は代理店が若手に運用を任せていることに不満を述べていました。若手が運用を担うという声がある一方、新卒採用を止めた会社の証言もありました。業界全体で採用が減ったことを示す統計ではありません。新人向けの作業をAIに渡すと、その作業を通じて確かめる力を身につける機会も一緒に渡ることになります。採用人数や外注費が減ったことは数字に表れますが、数年後に確認できる人が何人残っているかは、いまの報告には表れません。
データへのアクセスを、不快でも許可すると答えた人がいる
顧客の側にも、数字に表れない中身がありました。Usercentricsが9月29日に公表した調査(調査会社Sapio Researchが7市場の1万1,000人に3月に実施)では、AIアシスタントに自分のデータへのアクセスを条件なしで許してよいと感じている人は7%でした。同社の9月29日の発表文では、不快に感じながらも許可すると答えた人は17%で、条件なしで許可してよいと感じる7%の2倍を超えています。ただし、同社の詳細ページは前者を16%と記載しており、資料間で1ポイントの差があります。どちらの値でも2倍超ですが、これはデータへのアクセスについての回答で、AI利用全般への賛否や実際の許可操作を測った数字ではありません。報告書はこれを「あきらめの同意」と呼びました。発表文によると、仕方なく押された「はい」と納得して押された「はい」は同意率の上では同じ1件になりますが、その後の行動は同じではありません。同社の担当者は、仕方なく押された「はい」は最初の悪い報道までしかもたない、と表現しました。
同じ日、顧客の声を集めるツールを提供するAlchemerは、米国の消費者2,009人への調査を公表しました。AIによって必要なときに人へ連絡しにくくなったと答えた人は44%、人による対応が保証された商品やサービスに追加で払うと答えた人は43%でした。AIを毎日使っている人ほど厳しく、人の対応の保証に必ず追加で払うと答える割合は、AIを使わない人の2.5倍を超えています。どちらも自社による調査で、自社の商品と無関係ではない点は差し引いて読む必要があります。それでも、AIの窓口の利用件数や同意率が伸びていることと、顧客が納得していることは別だという点で、二つの調査は同じ方向を指しています。
ChatGPTの広告では、媒体の数字と自社の記録が合わない
Digidayは10月1日、OpenAIがChatGPTで広告を売り始めて7か月がたっても、広告主がその効果を測る方法に悩んでいると報じました。英国の広告会社Accuracastは、ChatGPTだけで見込み客を集める広告を出し、問い合わせフォームへの記入が実際に届いているのを確認していました。ところが2週間たっても、ChatGPTの管理画面ではコンバージョンが0件のままでした。同じ会社は、ChatGPTが約100件と報告したクリックのうち、自社の計測で拾えたのは20件だったとしています。ほかの広告会社からは、成果の反映がGoogleなら数時間のところ24〜36時間遅れる、報告に年齢などの属性や利用者が入力した文章のデータが含まれない、という声も出ています。AdRollやJellyfishのように、クリック数のずれは見ていないという会社もあり、すべての広告主に起きている問題ではありません。
記事によると、計測の仕組みを有効にするにはOpenAIの規約に同意する必要があり、顧客データの扱いへの懸念から法務部門が同意しない広告主も多くいます。その結果、Googleに月1,000万ドルを出している顧客がChatGPTには月10万ドル未満しか出しておらず、Accuracastも試験用の1万〜2万ポンドから10万ポンドへ予算を上げられずにいます。広告会社Mile MarkerのMonica Shukla氏は、試す前に自社の計測の方法を決めておき、媒体が出す数字をそのまま受け取らないことが大切だと話しました。予算を増やす判断の根拠を、媒体の報告ではなく自社の記録に置こうとする動きが、広告会社の側から出てきています。
企業やブランドにとって何を意味するか
顧客の不安
AIの窓口に案内された顧客が気にしているのは、困ったときに人へたどり着けるかどうかです。Alchemerの調査では44%が人に連絡しにくくなったと答えました。自社でも窓口の利用件数だけを見ていれば、そうした不満を見落とすおそれがあります。同意の画面で「はい」を押した顧客の中にも、断るほうが面倒だから押した人がいます。そうした顧客は、不満を伝える前に黙って離れていくかもしれません。
価値認識の変化
これまで、人による対応はAIで置き換えるべき費用として扱われがちでした。今週の調査では、人の対応の保証に追加で払うと答える顧客が4割を超えています。AIの利用が広がるほど、人が確かめていること、必要なときに人に代われることが、商品の価値の一部として見られ始めています。同意率や利用率が高いことを、そのまま信頼の証拠として扱うのは難しくなってきました。
届け方・接点
顧客との接点ごとに、いま見ている数字が何を数えていないかを確かめておく必要があります。AIのサポート窓口なら、問い合わせ件数に加えて、人の担当者に代わるまでに何回の操作が要ったかと、途中でやめた人の数を見ます。データ利用の同意画面なら、同意率に加えて、後から取り消した人の数を見ます。ただし、取り消さなかった人が納得したとは限りません。任意の短い質問で、許可した理由や不安も確かめます。新しい広告の出稿先なら、媒体の報告に加えて、自社の計測で数えた件数を持ちます。取引先が出す数字は、相手の仕組みの中で数えられたものです。自社で数え直せる記録を一つでも持っておくと、両者がずれたときに気づけます。
事業・ブランドへの意味
ブランドの基準は、最後に誰かが確かめることで守られてきました。AIで作る量を増やす際に、誰が確かめるかを記録せず、その人を育てる機会も減らしてしまうと、基準が崩れても件数の集計では気づけません。高級化粧品ブランドの担当者が懸念していたように、品質が崩れて最初に損なわれるのは、価格を支えているブランドへの信頼です。確かめた人の記録を残すことは、作業の管理にとどまらず、ブランドの価値を自社で守るための仕組みになります。
今週の視点
Three Plus Six Intelligenceは、来週の運用会議までに一枚の表を作ることを今週の実務として提案します。行には、AIを使っている業務を並べます。広告の制作、顧客対応の窓口、データ利用の同意、新しく試している広告の出稿先などです。列は三つで、いま報告で見ている数字、その数字が数えていないもの、来月から足す記録を一つ、です。広告の制作なら、本数の横に「公開前に確かめた人の名前と日付」を足すことが考えられます。顧客の同意なら、取り消し件数に加え、任意で尋ねた許可の理由や不安を記録します。価値が顧客に届く構造を考えるには、作った量と、受け取った顧客の応じ方を一緒に見る必要があります。すべての行を一度に埋める必要はありません。まずは、問題が起きたときに説明を求められそうな一行から始めてみてください。
2026年10月4日追記:調査の対象と回答条件、Usercentricsの資料間の数値差を明記しました。新卒採用と顧客対応の記述を出典で確認できる範囲に修正し、提言に任意の理由確認を加えました。
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